読者には合言葉のようなキーワード
「ヒメワスレナグサ」は、梨木香歩さんの小説 『西の魔女が死んだ』(1994年刊)に登場する小さな青い花を咲かせる雑草の呼び名です。物語の終わりの方で明らかになりますが「キュウリグサ」(胡瓜草)のことです。
主人公の少女まいは祖母の家で小さな勿忘草(わすれなぐさ)のような雑草を見て「ヒメワスレナグサ」と名付けます。
この小さな青い花はなんて愛らしいのだろう。まるで存在がきらきら光っているようだ。
キュウリグサ
「ヒメワスレナグサ」は主人公まいが名付けた愛称であり、正式名称は「キュウリグサ」(胡瓜草)です。葉を揉むと胡瓜のような匂いがすることから名前の由来になっています。日本全国に自生する在来種で、花期は主に3~5月頃です。
ワスレナグサと同じムラサキ科ですが小さく地味であまり目立たない野草です。しかし、ワスレナグサに似たその花姿は可愛らしいです。道ばたや緑地、街なかでも生えています。
花は直径約2ミリ程度と小さく、淡青色(ライトブルー)で中心が黄色、花冠は5裂します。葉の形はスプーン状、成長すると茎を長く伸ばします。
『西の魔女が死んだ』を読んで以来、毎年気になる春の野草の一つなのですが、写真を撮るときは小さくてピント合わせに苦労します。
ネット上では読者の方がヒメワスレナグサとしてアップしているのを見かけますが、時々間違えている方がおられます。憶測ですが野生種のワスレナグサと混同しているのではないかと思います。
ワスレナグサ
ワスレナグサはワスレナグサ属の総称であり実際は多くの種類が存在します。花壇などでよく見かける園芸種は見慣れていても、野生種のワスレナグサはあまり知られていないと思います。
園芸種は改良品種なので見栄えが良く、花は大きく直径約6~8ミリくらい。花色も青色だけでなく、白色、ピンクなどカラフルです。
主な野生種のワスレナグサ
エゾムラサキは本州中部以北から北海道に自生する在来種です。
ノハラワスレナグサ(ノハラムラサキ)はヨーロッパ原産の帰化植物です。
シンワスレナグサ(真勿忘草)は「私を忘れないで」という中世ドイツの伝説に因むヨーロッパ原産の帰化植物です。真は本物という意味があり、ワスレナグサの代表種のようです。
ちなみに私は野生種のワスレナグサを見たことがなく、それぞれの違いもよくわかっていませんが、写真を見る限りぱっと見では区別がつきません。
「キュウリグサ」と 「ワスレナグサ」との違い
「キュウリグサ」と 「ワスレナグサ」は花の大きさと色合いが異なる園芸種であれば、容易に見分けられます。
しかし、野生種のワスレナグサには花の直径が3ミリ程度の小さなものもあるようなので見分けに迷うかもしれません。
その場合は花をよく観察する必要があります。花の中心部の黄色の部分の周囲に放射状の白色の筋のような膨らみがあるかないかで見分けるのがわかりやすいように思います。ある場合はワスレナグサ、ない場合はキュウリグサです。
「ハナイバナ」
植物図鑑には、キュウリグサに似ている野草として「ハナイバナ」がよく比較されています。同じくらいの大きさですが、花の中心が黄色ではないので区別しやすいと思います。
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