その一面に美しい銀色の花が咲いていたのだ。暗い林の奥の、そのまた暗い、ほとんど陽も届かないはずの場所に。その植物は、二十センチくらいの、葉を持たない銀白色の鱗をつけた茎の先に、やはり銀細工のような小さい蘭に似た花をつけていた。それが何十本となく、まるで茸かつくしのように地面から生えているのを見るのは不思議な光景だった。
これは銀龍草です。
これはおじいちゃんの大好きな花でした。おじいちゃんはこの花を鉱物の精と呼んでいました。
「ギンリョウソウ」は、梨木香歩さんの小説『西の魔女が死んだ』(1994年刊)に登場する神秘的で不思議な植物です。一般的には銀竜草ですが、『西の魔女が死んだ』では銀龍草です。
十年以上、毎年同じ場所で、ギンリョウソウを見てきました。ギンリョウソウは山の植物というイメージがありますが平地でも見られます。ここは東京・多摩市の都立桜ヶ丘公園周辺の雑木林の中です。すぐ横には人通りの多い道路が通っており、周囲には住宅が立ち並んでいます。多摩丘陵に造られた多摩ニュータウンの片隅に辛うじて残っている希少な自生地です。よく知られた人気の高尾山にわざわざ登らなくても見られます。南多摩エリアは里山環境や緑地になっている場所でギンリョウソウを見ることは可能ですが、23区エリアではとても難しいです。しかし、意外な場所での口コミ情報があります。明治神宮です。私も探しに行ったことはありますが見つけられませんでした。
ギンリョウソウは当地では5月から6月にかけて見られます。落葉広葉樹林の落ち葉が降り積もっている場所に生えます。白色半透明の姿を銀の竜に見立てたのが名前の由来です。別名をユウレイタケといって、キノコのようにも見えます。群生しているとムーミンに出てくる「ニョロニョロ」のようであり、花が咲き終わる頃はゲゲゲの鬼太郎の「目玉おやじ」のようになります。
ギンリョウソウは葉緑素を持たない腐生植物で、光合成をしないで菌類から養分を受け取ります。菌類との共生環境が必要なので栽培は難しいと言われています。
0 件のコメント:
コメントを投稿